技術は腐敗する — なぜ技術を更新し続けなければならないのか
はじめに
「技術負債」という言葉を聞いたことがある方は多いのではないでしょうか。これは十分にシステムを設計せずに作ったため、後から対処すべきことが積み上がっていく状態を説明する概念です。
しかし、仮に最初に十分に設計して、あるべき姿で作ったとしても、技術は時間とともに古くなります。この現象は「負債」というより「腐敗」と呼ぶ方がしっくりきます。腐敗は時間経過とともに発生します。老朽化と呼ぶ方が良いかもしれません。
一般的には腐敗と言う言葉を技術に使うことはありません。しかし、この記事では、敢えて腐敗と言う言葉を使い、技術がなぜ腐敗するのか、そして、なぜ何をしなければならないのかについて考えます。
技術は進歩し、最適解は変わる
ある時点で最高の設計だったものも、3年後、5年後には時代遅れになっていきます。それは日々、世界中の誰かがより良い解決策を探し、新しい技術を生み出しているからです。インターネットが登場し、さらにAIの時代になって、その傾向はますます加速しています。
たとえば、かつてはソケット通信のプロトコルをプロダクトごとに独自で作ることは珍しくなかったでしょう。しかし、ネットワークの速度が高速化し、HTTPが広く普及した現在では同じことをする理由はほとんどありません。さらに言えば、より広く普及した技術を使うことでその技術を扱える技術者も多くなります。当時の最適解は、今の最適解ではないのです。
個別最適と社会最適のズレ
製品を開発する際には技術が必要です。しかし、自社の製品に最適化した技術と、業界全体で標準化された技術がいつも一致するとは限りません。時には、プロダクト固有の課題を解決するために独自の技術を開発することが合理的な場面も存在するでしょう。
そして、重要な独自技術を開発できた場合、それ自体が競争力を生み出すこともあり得ます。そうなれば、独自技術の開発は合理的な判断です。しかし、同じ機能を持つ技術が標準として普及すると、独自の仕組みを維持するコストは次第に高くなっていきます。世の中に標準技術を使える人材が増えても、独自技術を扱える人材は自社の中にしかいません。ドキュメントも、コミュニティも、独自技術は自社の中に閉じ、標準技術は社会として蓄積していきます。
このズレが、時間とともに「技術の腐敗」を加速させます。
製品もシステムも組織も、育て続けなければならない
これは製品だけに限った話ではありません。システムも同じです。システムは作る際、その時点の技術を前提とします。その情勢を色濃く反映した技術を前提としたシステムは、時間が経てば理解できる人が少なくなり、保守が困難になっていきます。
組織も同じです。組織は技術や法律を前提として出来上がります。法律は技術の進化とともに生み出され、それを支えるツールやサービスも進化して続けます。たとえば、電波法は無線通信技術の登場がなければ存在しなかったでしょうし、道路交通法も自動車という技術が前提になっています。また、無線通信技術がなければ、スマートフォンやノートパソコンは存在せず、それらが無ければ、リモートワークという概念もなかったでしょう。
新しい製品を取り入れなければ、組織もまた腐敗し、継続が危うくなります。
長く使われる製品は、同じ問題を解決するために保守され続けます。同じ機能・生産方式であっても、どこかで新しい技術を用いて作り直すことが必要です。放置すれば、当時の技術を扱える人が減り、再構築すらも難しくなっていきます。
HeritageArrowが技術更新に伴走する理由
私たち、HeritageArrowは「中小企業の技術力を100年先の未来へ繋ぐ」というビジョンを掲げています。
私は今が豊かな時代であると考えています。しかし、今の生活・時代を実現するための技術は、100年先も維持できるでしょうか。技術力を100年先に繋ぐためには、今ある技術をそのまま保存するのではなく、時代に合わせて更新し続ける必要があります。技術は腐敗するからこそ、更新を止めてはいけない。しかし、中小企業が自社だけで技術の進化を追い続けるのは容易ではありません。
だからこそ、私たちは、社会の最新技術を地方の産業へ展開し、技術経営者とともに技術で未来を描いていきます。HeritageArrowの活動は、この「技術の腐敗」に抗い続けるための取り組みとも言えます。そのための一つの仕組みがKnowledgeHubであり、定期的な勉強会であり、技術活動の伴走支援です。他にも、できることを一つずつ積み重ねてまいります。
おわりに
技術は、意図的に育てなければ腐敗します。これは製品に限らず、システムにも組織にも当てはまる話です。大切なのは「今のままでいい」と思わず、定期的に技術を学び、新しい技術へと更新し続けることです。HeritageArrowは、その伴走者でありたいと考えています。
この記事は、代表 的場のブログ記事「技術は腐敗する」(2019年7月公開)をもとに、KnowledgeHub向けに再構成したものです。