知識の棚卸しのすすめ — 情報過多の時代に自分の知識を活かすために
はじめに
ソフトウェアエンジニアに限らず、技術に関わる仕事をしていると日々大量の情報を受け取ることになります。新しいツール、新しい手法、新しいサービス。情報を追いかけるだけで精一杯になり、自分が何を知っていて何を知らないのかが曖昧になっていきます。さらに最近は、ソフトウェアエンジニアだけでなく、多くの職種が同じような状況になりつつあります。心当たりはないでしょうか。
この記事では、「知識の棚卸し」という考え方を紹介します。モノの在庫を数えて整理するように、自分の知識を定期的に調べて整理する。それだけで、知識の活用しやすさが大きく変わります。また、過不足に気づき、何を捨てて、何を補充すべきかを考えるきっかけにもなります。
知識の棚卸しとは
もともと、棚卸しとは、もともと商品や原材料の在庫を調べて数えることです。決算のために所有している資産を評価できる状態にする活動ですが、副次的に不要なものやなくなっているものに気づけるという効果があります。
今回紹介する知識の棚卸しも同じ発想です。自分が持っている知識を改めて調べて整理することを指しています。目的は、知識を活用しやすくし、新しい知識を受け入れる余地を作ることです。自分が持っている知識がどの程度、通用するか、知らない知識は何か、などを明確にしていきます。
そもそも論として、脳に入る情報には限度があります。だから、すでに入っている情報を整理して、探しやすくするのが大切です。それが知識の棚卸しです。
棚卸しの方法 — すでに知っている分野の本を読む
知識の棚卸し方法はいろいろありますが、一つの実践的な方法は、すでにある程度知っている分野の本を読むことです。
本を読むと、次のような体験が起きます。これが棚卸しの流れです。
- 知っている情報に出会う。それを説明する文章や図を見つける
- 知らない情報にも出会う。新しい知識が加わる
- 目次から、情報が構造化された形で得られる
- 知っているが、本で語られていない情報に気づく
ここで最も重要なのは4番目です。
1~3は本に書いてある公知の情報です。他の人も知っていることが多いでしょう。ある程度、勉強している方と話す際の共通言語になりますので、まず、1~3は押さえておくことが重要です。これは忘れた場合、本を読めばわかります。
ただ、4は、公知になっておらず、自分だけが知っている知識です。これは丁寧に扱わなければなりません。なぜなら、自分が記録しなければ、誰にも伝わらないまま消えてしまう知識だからです。みんなが知っている知識と自分だけが知っている知識を丁寧に分けて理解するのが一つの目的です。
日々の記録が棚卸しを助ける
棚卸しは定期的な大掃除のようなものですが、日々の片付けにあたる習慣もあります。それは、考えたことを日付とともに資料にまとめておくことです。私の場合、Obsidianに日付メモ付きで作業ログを記録しています。
一人で活動していると「自分のことは自分が知っている」と考えて、考えを書き残さずに前に進んでしまうことがよくあります。その時はそれでもいいのですが、対象が複雑になり時間が経つほど困ります。
人間の記憶は曖昧なもので、時間が経つと、自分の記憶もどんどん薄れていきます。また、複雑な問題に取り組むとき、最初に想像した仕組みと実際の仕組みが違うことはよくあります。時間が経つと、何を勘違いしていたのか、当時は何を知っていたのかすら覚えていないことがあります。
そのため、考えたことを日付つきで残しておくと記憶を辿る手掛かりになります。「あの頃の自分はこう考えていた」を確認することで、自分の記憶を引き出しやすくできます。それにより過去の理解を検証し、修正することもできます。
HeritageArrowのコミュニティで知識を活かすために
知識の棚卸しは個人の習慣ですが、組織やコミュニティに広げることで、さらに大きな価値を生みます。
HeritageArrowの活動に関わる人は、それぞれ異なる専門性と経験を持っています。一人ひとりが「自分だけが知っていること」に気づき、それを記録して共有すれば、コミュニティ全体の知識基盤が厚くなります。
KnowledgeHubは、まさにそのための場です。個人の棚卸しで見つかった「公知ではないが価値ある知識」を記事として蓄積していくことで、HeritageArrowに関わるすべての人がその知識にアクセスできるようになります。
おわりに
情報過多の時代だからこそ、定期的に立ち止まって自分の知識を棚卸しすることには意味があります。そして、棚卸しの中で見つかった知識を整理整頓することで、自分だけでなく周囲との協業がしやすくなっていきます。
大掃除のように定期的に棚卸しをすること。日々の片付けのように考えたことを記録しておくこと。この二つの習慣が、自分自身の知識の活用力を高め、コミュニティとしての活動を豊かにしていきます。
この記事は、的場のブログ記事「定期的な知識の棚卸しについて」(2024年7月公開)および「考えたことは日付とともに資料にまとめる」(2021年7月公開)をもとに、KnowledgeHub向けに再構成したものです。