AI時代の知識との向き合い方 — 何が不要になり、何が大切になるか
今回は、AI時代の知識との向き合い方について、私の考えを話します。AI時代において、何が不要になり、何が大切になるでしょうか。私の経験を説明しながら、変化したこと・変化してないことを説明します。
AI時代に知識の価値が変わっていく
私がプログラミングを始めた頃、独学でプログラミングを学ぶのは難しい状況でした。苦労して専門書を手に入れても用語がわからない、エラーが出てた時に聞ける人がいない、一つ一つの概念がなぜ必要なのかもわからない。私はGUIアプリを作りたいと思っていましたが、独学で取り組むには壁が高すぎました。
それがインターネットが普及して、AI時代になった今では、ChatGPTに相談すれば動くコードが出てきます。pip installするだけでそれらしい環境が整います。思いついてから動くものができるまで、1時間もあれば辿り着きます。以前は何日もかかっていたことが、一瞬でできるようになりました。動く状態のものを手に入れることは簡単になりました。
日々、技術は確実に進歩しています。そして、AIの時代になって、その進歩は単に「作ることが速くなった」だけでなく、仕事のやり方を変え、知識の価値も変えていきます。
技術メモが要らなくなった
以前の私は、何度も調べるのが面倒な情報や、調べた結果の在処がわからなくなりそうな情報を、技術メモとして残していました。なぜかというと、自分が知りたいと思っている情報がインターネットに埋もれて探すのに時間がかかっていたからです。私は、自分が利用することが多い情報を手元にメモしていました。
しかし、そういったメモを取ることが減っていきました。なぜなら、AIツールに聞けばすぐにメモを作れるからです。AIツールが公式ドキュメントを参照できるようになり、適切なプロンプトを書くことにも慣れていくと、自分自身でメモを取るよりも、毎回AIから生成させる方が楽になっていきました。
簡単な技術メモは、AIが即座に生成してくれる時代になりました。
代わりに重要になったもの
一方で、まったくメモを取らなくなったわけではありません。以前は前述のような技術メモに埋もれて目立たなかった別のメモが残っていきました。それは次のような情報です。
- 作業ログや作業計画(ある時に何をやったか、次に何をやる想定だったか)
- 作業の前提となるコンテキスト情報(なぜそうしたのか、どういう状況だったのか)
- 選択肢の比較、メリット・デメリット(検討した選択肢はなにか、何を基準に選んだか)
- 問題や機能の構造(どのような因果関係で考えていたか)
AIツールで一つ一つの作業スピードが上がった結果、一人で実行する仕事の量が増えています。そうなると、自分一人が目にする情報や精査する情報も増えていき、個別の過去の判断や背景もその記憶の中に埋もれ、忘れやすくなります。だからこそ、上記のような情報の整理が重要になります。
人間が頭を使うべきことが変わっている
この変化を俯瞰してみると、技術の進歩によって「人間が頭を使うべきこと」の配分が変わっていることがわかります。
例えば、「この関数の使い方は?」「このエラーの原因は?」といった技術の断片に関する情報を探すのは、AIが得意です。一方で、「なぜこのアプローチを選んだのか」「この判断は今の状況に合っているか」「次に何をすべきか」といった文脈に依存する判断は、その当時に関わった人間しか知り得ません。この、人間しか知り得ないことの品質を高め、その情報をきちんと残しておくこと人間は頭を使うのが大切になっていくと考えます。
かつては情報を調べること自体に多くの時間と労力がかかっていました。今はその部分が大幅に軽くなった分、構造を考えること、判断すること、そしてその判断を記録して共有することに、より多くの時間を使えるようになっています。そして、それこそが新しい仕事であり、そのやり方の価値が高まっていきます。
HeritageArrowが最新技術を届ける意味
私たち、HeritageArrowは「社会の最新技術を地方の産業へ展開する」というミッションを掲げています。
様々なニュースで話されているように、AIツールは、ソフトウェアエンジニアだけでなく、様々な仕事・職種に変化を及ぼします。あらゆる業種で、調べ方、学び方、仕事の進め方が変わりつつあります。この変化がどこに向かうかを理解することは生き残りに重要な意味を持ちます。
かつてプログラミングの独学で感じた「用語がわからない」「どこで調べればいいかわからない」という壁は、インターネットの登場で大きく下がり、AIツールの登場でなくなりました。その結果、「なぜ、そうするのか」「なぜ、それを選んだのか」と言った判断や意思決定の意味が重くなっています。
この変化を知っているかどうか、また、AIツールを使いこなせるかどうかで、仕事の意味が大きく変わります。最新技術がどう仕事を変えるのかを具体的に伝え、一緒に使い方を考えていく。それがHeritageArrowの活動の一つの一つです。
おわりに
AIツールの進歩により、「何をどう調べるか」より「何をどう判断するか」に頭を使う時代になりつつあります。技術メモは減り、判断の記録が残っていきます。この変化は、仕事の本質が「情報を集めること」から「情報を使って判断すること」へ移っていることを示しています。
KnowledgeHubに蓄積すべき知識も、まさにこの「判断や考え方」の部分です。AIには代替できない、人間の経験と文脈に根ざした知識。それが価値のある時代になっていきます。
この記事は、的場のブログ記事「減った技術メモ、残った技術メモ」(2024年7月公開)および「技術が進歩してるなあ、と思った話」(2024年8月公開)をもとに、KnowledgeHub向けに再構成したものです。