中小企業のデジタル化を考える — ソフトウェアとシステム、そしてAIへ

はじめに

私は地方の課題について関心を持って活動しています。また。ITの専門家として様々な方と会話する中で「地方のデジタル化が遅れている」という話を耳にすることも少なくありません。とはいえ、アナログな業務の良さもありますし、何でもかんでもデジタル化にすれば良いという話ではありません。

そもそもの話として、「地方のデジタル化が遅れている」とはどういう状況なのでしょうか。

地方の産業について調べていると、多くの企業は中小企業であることがわかります。ここでは、中小企業のデジタル化の状況を調べ、見えた課題を共有します。

中小企業におけるデジタル化の状況

調査を行う中で、私は中小企業のデジタル化の支援を行っているITコンサルタントの著書を読んだことがあります。それは2023年頃で当時、書かれた本を読みました。その中で次のような状況が普通にあると説明されていたのが印象的でした。

  • 伝票から表計算ソフトに手入力する作業が繰り返されている
  • ファイルサーバーはあるが、データやファイルが共有されていない
  • ネットワークにつながっているが、マシンごとにソフトのバージョンが違う
  • 受注処理が紙で行われ、原本も紙で管理されている

私は都会でソフトウェアエンジニアとして活動しましたが、そんな私が見聞きしてきたプロジェクトの多くは、先端技術の導入や活用のプロジェクトです。最近は、AIといったキーワードが先に来ることも少なくありません。しかしながら、AIや最先端技術を活用する前に、まずデータをデジタル化して社内に共有するところから始めなければなりません。

中小企業のデジタル化について知るために、中小企業白書が参考になります。2024年、2025年の中小企業白書には、デジタル化やDXに関するデータがあります。

https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/2024/chusho/b1_4_7.html

https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/2025/chusho/b1_1_5.html

2025年度版の白書を見ると、「紙や口頭による業務が中心で、デジタル化が図られていない状態」にある会社が大きく減っていることがわかり、2024年度あたりで多くの会社がデジタルへの移行を進めていったのが見えます。さらに、2026年版の白書が5月に公開されて、状況の変化は進んでいます。こちらについては、追って説明します。

ソフトウェアの導入とシステムの導入は違う

様々な方と中小企業のデジタル化についてお話しする中で「ソフトウェアの導入」と「システムの導入」を明確に区別して説明することが重要であると見えてきました。

ここでいう、ソフトウェアの導入とは、ITツールを入れることです。例えば、会計ソフトを導入する、チャットツールを入れる、といった話です。これは言ってみれば、ソフトウェアをインストールしたり、SaaSを契約して使えるようにする段階の話です。

一方、システムの導入とは、何のために誰が何をやるかまで含めた業務フロー全体をシステムにすることです。いつ誰かがデータを入力すると、どうやって別の人のもとにデータが届くのか、そして、いつ次の業務が始まるのか。そういう「流れ」を作り、動かしていくことがシステムの導入です。

ソフトウェアを入れただけでは、システム化は進みません。紙の伝票を表計算ソフトに入力する作業が、別のソフトウェアに入力する作業に変わりますが、それだけではパソコンに情報を入力する手間だけが増え、業務は改善されません。何のために情報を入力するのか、その情報をどうやって利用するのか、という業務フロー全体を見直して初めて、デジタル化の効果が出始めます。

中小企業向けのノウハウが少ない

中小企業のデジタル活用について調べ検討しながら、様々な場所で議論をしていくとわかってきたこともあります。それは、多くの中小企業にとってデジタル化が身近なものではないのです。

「それって、大手がやることでウチみたいな小さな会社がやることではないでしょ?」

そんな言葉を何回も聞いたことがあります。さらに、中堅から大手企業向けのデジタル化ノウハウや事例は豊富にありますが、小規模な企業・中小企業向けのノウハウや事例があまり出回っていないようにも思います。これらによって、デジタル化のイメージが湧かない状況になっているのも理解できました。

確かに、大企業向けで必要なシステムと、中小企業向けで必要なシステムは違います。さらに、大企業のようなシステムを中小企業で構築すれば、中小企業は身動きが取れなくなり、日々の仕事が立ち行かなくなることもありえます。それでは困ります。

少ない人数で、多様な顧客に対応し、複雑な業務フローで活動する中小企業には、中小企業なりのアプローチが必要です。2020年前後から経産省を中心として、DX加速に向けた取り組みが始まっており、その中でデジタル化の取り組み段階が4つの分けられて説明されています。これは、中小企業のデジタル化においても参考にできます。今、どこ段階であり、何を目指すかが見えてくるはずです。

※上記の図は、2024年の中小企業白書を元に、筆者が作成したものです。

https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/2024/chusho/b1_4_7.html

デジタル活用の先にあるAI活用

デジタル活用を進めていくことで、データを元にした業務フロー改善、販路拡大や新製品開発が実施できます。最近話題のAI活用は、ここに効果を発揮しています。例えば、次のような事例があります。

  • 温泉旅館での翻訳・レビュー分析の事例
    • 翻訳AIで英語・中国語・韓国語へ即時対応した。
    • その結果、「言葉の壁がなく安心できた」という口コミが前年比30%増加した。
    • 別の旅館ではレビュー分析AIで食事提供スピードや清掃タイミングが改善され、予約サイトでの平均評価が0.4ポイント向上した。
  • 伊勢の老舗大衆食堂「ゑびや」の需要予測事例
    • 天候データや近隣ホテルの宿泊人数、過去の売上データなどをAIに分析させた。
    • その結果、来客数やメニューの注文を95%超の精度で予測した。
    • これにより、仕入れや在庫管理が最適化され、廃棄ロスを大幅に削減した。
    • 需要予測をもとに労働環境が改善され、従業員の有給取得率は80%以上に向上した。
    • 導入から5年で売上5倍・利益率10倍を達成した。
  • 中小製造業のAI画像検査の事例
    • 従業員45名の金属部品製造業で、画像認識AI(Azure Custom Vision)を導入した。
    • 初期80万円+月額5万円で、不良品検出率98%、検査時間70%削減を3ヶ月で実現した。

ちなみに、令和7年12月23日に内閣府は「人工知能基本計画」を発表し、そこでAIを基軸に組織経営改革(AI トランスフォーメーション)を促す話が述べられています。また、AI トランスフォーメーションは「AIを活用して、顧客や社会ニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」と定義されています。

https://www8.cao.go.jp/cstp/ai/ai_plan/ai_plan.html

私が技術を届ける意味

私はHeritageArrowという屋号を掲げて、地方のデジタル化を進める活動に取り組んでします。そして、中小企業のデジタル活用を支援するには、先端技術を知っているだけでは不十分だと考えています。デジタルを活用していくためには、現場で、何をデジタル化して、何をアナログのままにするか、を丁寧に考えながら進める姿勢が大切です。現場で、業務がうまく流れるシステムを作り上げていく活動が必要になります。

そのためには、現場にいる人が少しでも技術を理解し、できるところから一歩一歩進めていくことになります。私自身が全ての現場で一人一人と丁寧に会話しながらシステムを作ることができれば良いのですが、現実的には私の身は一つであり、関わる全ての現場で丁寧に対応することはできません。

だからこそ、私は様々な現場に足を運び、実態を見ながら人と話し、必要な技術や知恵を届ける活動に取り組んでいます。私は都会と地方を行き来しながら、両方で様々な方と対話することで技術と文化に関する知見の循環に寄与していきたいと考えています。

おわりに

確かに中小企業のデジタル化は、ソフトウェアを入れるところから始まります。しかし、ソフトウェアを入れただけではなく、そのソフトウェアを前提として業務の見直しを進めていく必要があります。これはAI活用も同じです。新しい技術を前提としながら、少しずつ業務を見直していきます。ソフトウェアやAIが得意な領域は、そちらに任せ、人は人にしかできない仕事に注力していくことになります。これは簡単な話ではなく、必ずしも楽になるわけでもないと思いますが、その活動が充実した事業活動にはつながると私は信じています。

私は、こうした中小企業のデジタル化の実践知を含めて、KnowledgeHubに知識を蓄積していきたいと考えています。また、HeritageArrowとしての活動で得た経験を、他の地域や企業でも参考にできる形で残していくことが、関わってくれる方々の役に立てば幸いです。


この記事は、筆者のブログ記事「デジタル化に関する現状や課題を調べてみた」(2024年1月公開)をKnowledgeHub向けに再構成し、各種情報を加筆修正してものです。

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